満開の桜の下で心躍る花見。
その美しい桜の枝を誰かが無造作に折ってしまったらどう思いますか?
桜の名所や公園では、春になると「桜の枝を折らないでください」という注意看板がよく見られます。
これは、多くの観光客が桜に触れたり、枝を折って持ち帰ろうとすることで、木が傷つき、寿命を縮めてしまうためです。
もう何十年も前ですが、日中、川沿いの桜並木を歩いていると、前方の中年女性が、乗っていた自転車を止めると、はさみを取り出し、5部咲きの桜の枝をなんの躊躇も悪びれる様子もなく、持ち去っていきました。
あまりに堂々としていたので、あれ?よかったんだっけ?っと唖然としてしまい、何もできなかった悔しさを今でも覚えています。
日本で育った人なら、特別に教育されなくても、「ありえない行為」という認識だと思います。
でも、川沿いに咲く桜。。。たしかに、国によっては、「野に咲く花を摘みました」という感覚でいる人もいるのかもしれません。
インバウンドで、桜を楽しみに来日する外国人であふれているこの頃、改めて、この問題を少し調べてみました。

1. 桜の枝を折る行為についての罰則は?
桜の枝を折る行為は、法律違反に該当する可能性があります。
以下に、具体的な法律や適用されるルールについて詳しく解説します。
1. 公共の場での桜の枝を折る行為
公園や河川敷、街路樹など、公共の場所に植えられている桜の枝を勝手に折る行為は、法律で禁止されている場合があり、具体的には以下の法律が該当します。
軽犯罪法(第1条第33号)
- 概要: 軽犯罪法では、「公園や公共の場所にある花木(樹木)を故意に傷つけたり、枝を折ったりする行為」を禁止しています。
- 罰則: これに違反した場合、拘留(1日~30日)または科料(1000円~1万円未満の罰金)が科される可能性があります。※2025年3月現在
器物損壊罪(刑法第261条)
- 概要: 他人の所有物を損壊する行為(木の枝を折るなど)が該当します。たとえ桜の木が公共のものや自治体所有であっても、この罪が適用される可能性があります。
- 罰則: 3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。※2025年3月現在
2. 国や自治体が指定する桜の保護エリア
桜の名所や特定の保護地域に植えられている桜は、さらに厳しい保護対象となることがあります。
文化財保護法
- 概要: 桜並木や古木の桜が天然記念物や文化財に指定されている場合、その木に損傷を与える行為は「文化財保護法」に違反する可能性があります。
- 罰則: 文化財を損壊すると、5年以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。※2025年3月現在
自治体の条例
- 一部の自治体では、名所や公園に植えられた桜を保護するための条例が設けられている場合があります。
- これに違反すると、罰金や行政処分が科されることがあります。
私有地の桜を折る場合
私有地に植えられた桜の枝を無断で折る行為も、法律違反となる可能性があります。
- 器物損壊罪: 他人の所有物を損壊する行為として適用される。
- 不法侵入罪(刑法第130条): 私有地に無断で立ち入った場合は、不法侵入罪も成立する可能性があります。※2025年3月現在
2. 桜の枝を折るこ行為の文化的、道徳的側面
日本文化では、法律とは別に、桜を傷つける行為は「自然を敬う心に反する」として強い非難を受ける傾向があります。
特に桜は春の訪れや命の象徴とされるため、枝を折ることは不道徳な行為と見なされます。
1. 自然信仰と精霊信仰
日本では古代から木や森に神や精霊が宿ると信じられてきました。
特に神社の境内にある木や、長年生きた大木は「御神木(ごしんぼく)」とされ、神聖視されることがあります。
このような木の枝を折ることは、神や精霊への冒涜(ぼうとく)とみなされ、不吉とされるのです。
2. 生命を断つ行為への忌避感
植物も生きている存在と捉えられ、枝を折ることは「命を断つ行為」と見なされることがあります。
3. 「切る」「折る」=縁起の悪さの象徴
「切る」や「折る」といった言葉自体が、縁が切れる、関係が壊れるなどを連想させるため、枝を折る運を「断ち切る」象徴と見られることもあります。
4. 季節行事や風習との関連
春の桜や秋の紅葉など、日本では四季折々の自然を楽しむ文化があります。
花見や紅葉狩りなどでは、枝や花をむやみに折らず、「その場で自然を楽しむ」ことが重視されてきました。
枝を折ることは、こうした風情を壊す行為とみなされ、慎むべきものとされてきたのです。
5. 昔話や伝説の影響
日本の昔話の中には、「神聖な木の枝を折ったことで祟りを受ける」というエピソードがしばしば登場します。
こうした物語を通じて、「木の枝を折る=罰を受ける可能性がある」という価値観が、人々の間に広まったとも考えられます。
6. 桜と武士道の象徴
桜は古くから「儚さ(はかなさ)」や「潔さ」を象徴する花とされてきました。
満開の桜が短期間で散る姿は、人生の無常を感じさせ、特に武士道の精神と重ね合わされました。
戦国時代や江戸時代の武士たちにとって、桜は「短くも美しい命」「死の覚悟」の象徴とされ、命を散らすことへの美意識を反映していました。
7. 軍国主義時代の桜の利用
日本が軍国主義へと向かっていた明治時代末期から第二次世界大戦にかけて、桜は戦争のプロパガンダの象徴として利用されるようになります。
特攻隊と桜の花
太平洋戦争中、若い兵士たちは、自らの命を犠牲にして敵艦に突撃する任務を与えられました。
このとき、彼らの命を散らす行為が、「桜のように美しく散る」ものとして美化され、出撃前に「桜の花」が掲げられることもありました。
特攻機には桜のマークが描かれることもあり、兵士の死が「潔く美しいもの」として象徴化されたのです。
出征兵士を見送る桜並木
戦時中、多くの町や村では、戦地に向かう兵士たちを見送るために桜並木が植えられました。
桜は「死と再生」を象徴するだけでなく、「戦地に散った兵士たちの魂を弔う」ための象徴ともされました。
戦争中には、桜をテーマにした軍歌が数多く作られ、「同期の桜」はその代表作です。
3.まとめ
桜は、戦争中には武士道の精神や潔い死を象徴するものとして軍国主義に利用され、
戦後は、戦争の記憶を残しつつも、平和と希望の象徴として私たち日本人に寄り添ってくれます。
今回、改めて桜の事を調べるなかで、私にも、学徒出陣でフィリピンのルソン島で戦死した大叔父がいることを思い出しました。きっと桜をみたかっただろうなーと。。。
現在は、多くの外国人が、桜をみるために時期を合わせて日本を訪れます。
やはり、桜の美しさを末永く楽しむためにも、今度、桜の枝を折る、引っ張るなどの行為をみたら、やわらかく注意することができればと思っています。